月報 2003年度 12月号

 

平成15年(2003年)12月1日
編集発行・横須賀市教育研究所/代表・五ノ井文男
横須賀市久里浜6-14-3 / TEL(046)836-2443(代)
(〒239-0831) / FAX(046)836-2445  
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巻頭 特集 教育史
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巻頭


 古人に学ぶ ~古くて、新しい、教育最前線~ 
 

◆数年前から、生活雑貨などを中心に「和の文化」が静かなブームになっています。昔からある日本文化の良さを、現代の暮らしにアクセントとして少しだけ生かす感覚が受けているようです。おしゃれであるかどうかは別として、古くても良いものは絶対に良い、優れたものの本質は流行を超えて変わらない、という再発見が大きいのだと思います。
◆教育界においても「職人技術」や「伝統文化」「ものつくり」といったキーワードに関心が集まっています。つまり、人が人たる所以である「道具を使ってものを創る行為」を大事にしよう、見直そうという試みに他なりません。学校で教育実践として行っているのは、子どもたちが自分の手で実際にものを作り出す苦労や喜びを通して、考える力や自信や感動、達成感を学ばせようという取り組みです。
◆大きな教育改革の流れの中、全国で、従来の殻を破った新しい試みが始まっています。「教育特区」もその一つです。構造改革特別区域(特区)法が成立し、特定の地域に限って法律や政省令に基づく各種の規制が特例的に撤廃ないし緩和される制度「特区」が、認められるようになりました。教育の分野においても、全国の自治体から様々なアイデアが国に寄せられ、現在までに33件の「教育特区」が認定を受けて既に動き出しています。本市では「横須賀市国際教育特区」が認定され、外国語指導助手等に特別免許状を与え、特例により市費の教職員として学校に配置任用ができるようになりました。              
◆東京都八王子市では「不登校児童・生徒のための体験型学校特区」を申請し、認定されました。不登校児童・生徒のための小中一貫校で、午前中は国語や算数などの教科学習を行い、午後は体験重視の総合的な学習の時間「マイスタータイム」を行うことに一番の特色があります。「マイスター」とはドイツ語で「職人」を意味する言葉です。「マイスタータイム」は「ものつくり」「技能・資格」「芸術・文化」「その他の体験活動」の4分野から構成されています。不登校を経験した子どもたちが、体験型の学習を通して自信を回復し、興味や関心の幅を広げ、いつかそれが将来の職業選択の力になることが期待されているのです。

◆「職人」という言葉には、どこか仕事に対する情熱や誇り、責任感や厳しさが感じられるものです。法隆寺の昭和大修復を手がけ、日本最後の宮大工棟梁と呼ばれた故西岡常一さんは、まさにそんな「職人」そのものの人でした。西岡さんは「法隆寺を支えた木」「木のいのち木の心」の著者であり、多くの肉声による名言を残しています。その中で次のようなことを述べています。
 「1300年前に法隆寺を建てた飛鳥の職人技術に現代人はとても追いつけない。法隆寺には先人の技術と知恵が凝縮されている。木に残されたノミの痕跡の一つ一つに職人たちの腕前や心構えまで見て取れる。木は人間と同じで一本ずつがすべて違う。その木の癖を見抜きそれに合った使い方をする必要がある。職人の技は何センチなどという数値では表せない。手の記憶のみによって人から人へと継承されるのである。」
◆昔は家を建てたら、庭に木を植えたそうです。大工という職人によって建てられた日本家屋は、200年もつので、植えた木が育つ頃に建て替えるためです。「今の人にそんな時間の感覚がありますかいな。目先のことばかり。それでいて森を大切に、でっしゃろ。」西岡さんの言葉は現在の私たちに痛烈に響きます。大きな新しい時代の流れの中にあっても、優れたものの本質を見失わずにありたいと思います。 

(指導主事:下川 紀子) 

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特集


 教師と自己改革
子どもを見つめる目を磨く 変われない自分との戦い
光洋小学校 教諭 増田 喜明 上の台中学校 教諭 橘 広基
 自己改革を性急に要求されているかのような情勢の中、まずは変わらない、変えなくていいものが自分にはあるという信念から自己改革を考えたいと思います。私の学級では集団が一つにまとまらず多様な問題を抱える毎日でした。そこで決めた方針は、自分が子どもたちを見つめる目だけは常に変えないようにすることでした。行動面を指摘する見方だけではなく、その行為の裏にある上手に表出できない動機や悩みに視点をあて続けられたら、やがて見えなかったものが必ず見えてくる時が訪れるからです。
 反抗的で自暴自棄的な態度を取っていた児童がいました。受容的な態度で待ちの姿勢で接していきました。ある授業後、その子のノートには「勉強は難しいから嫌い、でも今までの自分はもっと嫌い。」と思いが綴られていました。その子の心の葛藤が見えた瞬間でした。
 また、思い通りの自己表現ができず友達との関わりが円滑に進められない児童がいました。その子の行動には「笑う」という感情表現が見られなかったのです。家族と面談の折、そのことを話題にすると、確かに「笑う」ということがなかったと初めて気づいたかのようでした。そして過去の成長過程でそのきっかけとなることが思い出され、子どものことをより一層家族が温かく見守っていくよい機会となりました。
 見過ごしてしまいがちな小さなサインをつかむ目こそが、今の時代に必要な教師の力量だと思います。そして、行動の背景にある子どもの心の動きが見える瞬間を見落とさなくなったときこそ、結果として教師は成長という自己改革に到達していくものなのではないでしょうか。

 

 理想の教師像と現実の自分との格差をいかに縮めるかについて、これまで努力をしてきたつもりではあります。しかし、その努力が実を結んでいるのかと問われれば、あまりに心もとないと言わざるを得ません。
 書店に足を運ぶと「自己啓発」に関する本が山積みになっています。教師だけでなく、多くの人が「自分を変えたい」と考え、葛藤しているのではないでしょうか。
 最近になって強く感じるのは、自分を変えるというとことは一筋縄ではいかないということです。特に欠点(教師として足りない点)がなかなか克服できません。教育書を読む、研修に参加するなどの方法もありますが、そういった手段だけでは限界があるように思います。
 思い切って視点を変えてみることが必要なのかもしれません。私は理科の教師ですが、苦手な習字や絵を習ってみる、ボランティア活動に参加する、パックに頼らない海外旅行に挑戦するなど、新たな自分を発見する機会を積極的に持つことが必要だと感じます。そういった挑戦がすぐに欠点の克服につながるとは思いませんが、変われない現実と向き合い悶々としているよりは健康的です。
 「他人から逃げることは可能だが、自分から逃げることは決してできない」と生徒に話すことがあります。理想像からはるかに遠いとしても、教師である自分から逃げることはできません。教師として生きる毎日が、変革を求められる戦いだとも言えます。しかし、どうせならその戦いを楽しめる自分でもありたいと思います。

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教育史


横須賀教育史

 

 

 

 

【写真に見る横須賀の教育のあゆみ 9】

【自由研究】
 6・3制に伴い、社会科とならんで登場したニューフェイスに自由研究があります。
 自由研究は、特別教育活動の前身として、昭和22(1947)年5月に学校教育法施行規則第24条小学校(第4学年以上)・中学校の教科の中に設けられた過程です。1週2~4時間(年間70~140時間)程度を配当して、実施することが示されました。その目標は明確ではありませんでしたが、性格あるいは内容として、次の三つに分けて説明されています。

1.    個人の興味や能力に応じた、教科の発展としての自由研究
2.    同好の児童生徒が集まり、自由に学習を進める組織としてのクラブ活動
3.    児童生徒が学校や学級全体に対して、負っている責任を果たすための当番や委員の活動
●横須賀市の自由研究

横須賀市の教師たちは、自由研究という新しい課程をどのように受け取ったでしょうか。自由研究が児童生徒の個性や自発性を尊重するという点では、当時の新教育とぴたり一致していました。自由研究という名称自身も新鮮かつ期待をいだかせる響きをもっていたので、一般的にこれを歓迎し積極的にこれと取り組む姿勢が見受けられました。
 しかし、自由研究の時間を具体的にどう展開していくかという実際的問題に直面したとき、自由研究の性格があまりにも不明確であるため、実践への情熱と意図が先走って、内容が伴わず困惑を続けていました。
 このような問題状況のなかで、自由研究の性格を明確にし、具体的実践の性格を明らかにしたものが、横須賀市教育部(現横須賀市教育委員会)の発想による小学校自由研究発表会の開催です。
 昭和23(1948)年11月、市民会館で横須賀市主催第1回自由研究発表会が小中学校合同で開催されました。結果として、相当の成果をおさめることができ、時期は、夏休みあけが最も適当ではないかということになり、第2回自由研究発表会は、翌年の9月下旬に小中学校合同という形で、前年と同じ市民会館で開催されました。

第2回は、第1回目に刺激されて希望者が多く、そのため1日で終了する事が出来ないと言う状態になったので、各学校長とはかり、地域代表の意味を含めて、小学校で9校、中学校で8校の発表者が選ばれました。各部会ごとに予選をしたり、推薦したりなどしました。
 昭和27(1952)年の5回目からは、小学校は各部会ごと5会場で、中学校は市民会館で開催することになりました。
 第2回から自由研究発表入選集ができあがり、入選した10編の作品が集録におさめられました。当日参加できなかった児童生徒や教師、保護者への今後の参考にと企画され発行されました。
 回を追うにつれ、発表会がコンクール的な傾向をもったり、教師がやった自由研究であったりして、自由研究発表会のあり方に対する批判が強くなってきました。そのため、研究発表会のもち方も改善され、学校の教師の指導面についても反省がなされました。
 このように、年がたつにつれ自由研究発表会はさまざまな問題を克服し、今に至りましたが、初期の自由研究は、その後の特別教育活動のクラブ活動、さらには理科、社会科等の教科に大きな貢献を果たしたと言えます。
←「児童自由研究発表会」
旧坂本小学校会場にて
昭和49年(1974年)
「生徒自由研究発表会」
桜台中学校会場にて→
昭和48年(1973年)
(教育史・図書資料担当 佐藤隆晃)

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研修セクション


12月に開催する研修
 

<<基本研修講座>>
◆初任者研修
12月25日(木) 9:30~16:30
「国際理解教育」教育研究所


<<管理職研修講座>>
☆校長研修講座
12月2日(火) 15:30~ 教育研究所
「人権・同和教育の推進」神奈川県子ども人権擁護委員 鈴木 節夫

☆教頭研修講座
12月9日(火) 15:30~ 教育研究所
「教育と法律」弁護士 川瀬 冨士子



<<教育課題担当者研修講座>>
☆小学校
12月25日(木) 9:30~12:00
「実践交流・協議」   教育研究所

☆中学校
12月25日(木) 13:30~16:00
「実践交流・協議」  教育研究所

 

<<教育相談研修講座>>
☆第9回研修講座
12月5日(金) 15:30~ 総合福祉会館
「カウンセラーから見た現代の子ども」カウンセラー 向井 幸子

 

 

研修よもやま話2


◆10月、11月に初任者研修、6年次教職経験者研修、11年次教職経験者研修の一環としての「校内研究授業」に参加する機会がありました。各研修において、それぞれの年次に応じた「経験知」に基づいた授業が展開されていました。

◆リクルートワークス研究所長の大久保幸夫氏は、民間企業に就職した12年未満の社員に対して、「『学習暦』こそが問われている。苦にせず必要なことを勉強する習慣を持つ。頭の中に知識のインフラをつくる。学んだことはすぐに使う。」等が大切だと述べています。

◆今年度の半ばより、教育相談研修講座の一部と教育課程担当者研修講座において「研修終了後アンケート」を実施しました。「校内での研修成果の活用状況」に関する欄には、参加した先生方が自己の研修成果を校内で活用していることが書かれています。
 「研修終了後アンケート」を読ませていただくことによって、今後の研修の企画・運営の重要性を感じています。

◆JR西日本研修センター所長の三浦均氏は「研修はただやるだけでは意味がなく、実際の現場で生かされないと。」と述べています。本教育研究所の研修も「現場で活かされる研修」を目指し、企画していきたいと考えております。
       
早いもので平成15年も残すところ一ヶ月となりました。先生方においては成績処理等でお忙しい日々をお過ごしのことと思います。寒い日が続きますので、体調を崩さないように留意していただきたいと思っております。

(指導主事:木屋・望月・北村・椿本 TEL834-9308)

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情報セクション


教育情報セクション

 

■個人端末接続規約などの変更について
 今秋のウイルス感染をうけ、11月5日(水)に開催された、臨時情報教育担当者会において、確認されたことを報告します。
 個人端末を提供頂いている個々人になるべく負担をかけずに、ネットワーク内の安全性を高めたいという観点から今回の措置をとりました。
1.    申請用紙が3種類になりました。
2.    既に申請済みの方も含めて、個人端末の接続を 希望なさる先生方全員に、11月末を〆切に新しい書式の接続申請書を提出して頂きます。以降、新規の接続は随時受け付けます。
3.    接続申請を出された個人端末については、今後一年間の内に、ウイルスバスターコーポレートエディションをインストールして頂きます。既に他社の製品をインストールしている方は、その契約が切れる時点が対象になります。
  なお、学校のネットワークからインストールすることが出来ますので、一人一人の先生が経費を負担する必要はありません。
4.    転勤された場合には、従来の接続情報を消去し、新しい勤務校の管理者の承認を得た上で、新たな接続申請書を提出して頂きます。
5.    譲渡・転用・退職などの場合には、端末に設定・記憶されていた情報を消去したことを、現任校の管理者に証明して頂いた上で、接続端末廃棄申請書を提出して頂きます。

何れも高度情報化社会の一員として、また、各家庭や生徒の貴重な個人情報を扱う社会的な機関として、配慮する責任のある事柄です。
 校内の分掌的には、情報教育担当者が担っておられる分野ですが、一人一人の先生方の自覚に負うところが大きいですので、ぜひ、ご協力いただきたいと思います。

■ 県教育研究所連盟 教育研究発表会
 11月17日に平塚市立富士見小学校において神奈川県教育研究所連盟の教育研究発表大会が開催され、横須賀からは2つの研究発表が行われました。
 一つは昨年度の教育研究所長期研修生であった片田敦子先生が「子どもたちの生きる力をはぐくむ情報教育」を、もう一つは同じく昨年度までの算数・数学研究員会の緒方久美子先生、武田仁先生、大津富美子先生による「生きる基盤を育てる新しい算数・数学科の授業のあり方」でした。
横須賀のこうした素晴らしい研究成果を市内の先生方で共有し、役立てて欲しいと思います。

 

 

■ 今年度の理科関係講座に多数のご参加ありがとうございました
合計18回の研修講座に、延べ360名余の先生方が参加をされました。今年度は夏季休業中に全体の半分を設定したことで参加者が増えましたが、学校課業日午後に設定した研修の参加者は昨年同様非常に少なくなっています。
 多忙化の中、出たくても出られない状況であると思われますが、近々学校にお願い致します「理科研修に関するアンケート」をもとに今後の理科研修講座のあり方について改めて考えていきたいと思います。小学校、ろう、養護学校の先生方、中学校、高校の理科担当の先生方はよろしくお願い致します。

(指導主事 : 高木 TEL837-1338 ・ 一栁 TEL836-2418 ・ 坂庭 TEL836-6104)

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こくばん


 

研究員会だより

 

 

情報教育研究員会
『情報教育研究員会の最近の話題』

 「情報教育」研究委員会においては2年計画で昨年度より「授業におけるコンピューターの活用」というテーマで研究活動を行っております。メンバーは横浜国大の額田先生をスーパーバイザーに迎え、研究所長期研修員、小学校、中学校の教員で構成されておりそれぞれの角度で情報教育を捉え、研究を進めております。
研修の形態としましてはそれぞれの研修員が毎月研究授業を行い、その後研究討議を持つという形をとっています。研究討議においては、その日の研究授業におけるテーマについて様々な角度で論議したり、他のアプローチの仕方を検討しています。
 また毎回その場においては研究授業をヒントに新しいトピックが持ち上がります。「コンピューターを使ってこういうことができたらいいね。」という内容であったり、「コンピューターを使った授業で起こる問題」であったり、内容は様々です。
最近の話題はこんな内容です。

 

《中学校における生徒の情報処理能力の向上》
小学校でコンピューターを使った授業をすることが多くなり、全体にコンピューターを使うことに対して違和感がなくなってきている。また、マウスだけではなくキーボード操作ができる生徒も増えてきている。

《学校内での掲示板の応用》
一般のインターネットの掲示板を利用すると情報は限りなく世界に発信されてしまうので、学校内なら学校内、クラス内だけの掲示板をつくることができたらいろいろな活用できるだろう。生徒会等でも使用できると良い。


《コンピューターを使った授業におけるマナー》
コンピューターを使うことができる生徒が多くなった反面、その使い方・ネチケットの徹底が必須課題となっている。その勉強の仕方にも様々な方法があり、工夫ができる。
急速なスピードで発展をとげていく情報教育ですが、今年は2年間の研究のまとめの時期にあたり、授業において有効にコンピューターが活用されるよう、具体的で実践的な報告ができればと考えております。

 

松井 悟 (常葉中学校)
沖山 利香(久里浜中学校)
松本 剛  (諏訪小学校)
深本 彰  (池上小学校)

 

こくばん 

夢のような発見でした。植物は葉緑素の働きにより、光合成を起こします。同様の現象が水中で起こったのは、今から36年前のことでした。水に入れた「酸化チタン」に光を当てたところ、酸素と水素が発生しました。
 太陽光や蛍光灯の微量な紫外線が照射されることにより、化学反応を促進する「酸化チタン光触媒」が発見されたのです。現在では、殺菌効果・防汚染効果・脱臭効果を中心に、大気の浄化、医療への応用や食品添加物としても認可されており、生活には欠かせないものとなっています。
 これは、過日紫綬褒章を受賞した藤嶋昭氏の発見によるものですが、電気を通すプラスチックの発見や青色発光ダイオードの発見など、わが国の研究者が発見し、世界中で活かされている技術がたくさんあるものです。
 さて、子どもたちは、今年どんな発見をしてくれたでしょう。1枚となった暦を眺めながら、その科学する心を大切にしたいと思いました。

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更新日:2023年10月31日 22:49:29