月報 2003年度 6月号

 

平成15年(2003年)6月1日
編集発行・横須賀市教育研究所/代表・五ノ井文男
〒239-0831 横須賀市久里浜6-14-3
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巻頭


学校におけるマニフェスト

~具体的な目標設定と組織作り~

◆4月に実施された神奈川県知事選挙で、新しく松沢成文知事が誕生しましたが、この選挙の中で話題になったのが、マニフェスト(政策網領)です。「明るい豊かな都市にします」といったような今までのあいまいな公約に代わって、実現までの期間や数値目標など具体的な政策を打ち出し、有権者がその成果を判断しやすいように工夫しているため、当選後も有権者が首長の責任を問う根拠となります。

 

◆横須賀市においても、平成14年度から市民参画による外部評価委員会によって客観的な評価を行う行政評価システムを導入し、事業ごとに評価結果を算出しています。ここでは、具体的な目標を基に、担当者だけでなく主任や管理職を含めた組織的な検討をすることによって、より効果的な事業の推進方法を模索していきます。さらに、今年度からは、横須賀市のHP上においてこれらの評価をすべて掲載し、市民への責任ある公表に取り組んでいます。

 

◆このような状況の中、学校教育においては、一人一人の良さや可能性を積極的に見いだし、伸長することを願って、授業や行事等の見直しがなされ、制度的にも様々な改革が実施されています。総合的な学習の時間や目標に準拠した評価、少人数授業など、子どもが生きる教育課程の推進や確かな学力を培う授業の導入は多くの児童・生徒や保護者、地域の方々に正しく理解され、受け入れられ、定着しているでしょうか。
 各学校においてもこれらの方向性や成果について、多くの方から理解や共感を得るために「目的」「目標」を定め、それを達成するための「手段」を開発し、その結果である「評価」の公表を工夫していますが、更に効果を上げるための方策を考えていく必要があります。

◆文化庁著作権課長の岡本薫氏は著書『教育論議をかみ合わせる35の鍵』の中で、『学校は「具体的目標の欠如」という問題が蔓延している。目標の曖昧さが評価をわかりにくくし、さらに手段の善し悪しの論議を妨げている』と指摘しています。さらに『具体的な目標とは、数値的・定量的な測定だけでなく、「この学校の子どもは以前より○○になった」ということが分かればそういった定性的な測定であっても良い』と続け、学校目標を基にした、測定可能なより下位レベルの目標設定の必要性を訴えています。

 

◆また、目標に向かう時、中間評価は非常に大切なものですが、学校においてはその評価が担当者レベルに任されることが多く、主任や管理職なども交え、組織としてシステム的にチェックしていく事はほとんど無いのではないでしょうか。個人では気づきにくい事柄に多くの人の知恵を生かし、現状打破への意思を高めるためにも組織検討を進める必要があります。

 

◆社会の流れは (1)分かりやすく具体的な目標を、内部の職員だけでなく広く一般の人に公表する (2)その成果を内部だけではなく、外部からの意見も広く受け入れ評価し、公表する (3)組織的に目標や実施方法を見直し、修正や変更する中でより効果の高いものを目指す。という形をより一層強めています。
 各学校においては、開かれた学校づくりを推進させるシステム作りや子ども・保護者のニーズへの的確な対応・情報提供を更に加速させていく必要があるのではないでしょうか。

 

(主幹 中山 俊史)

 

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特集


■■ 教師としての1年を振り返って ■■

 

「子どもとの関係を大切に」

城北小学校 教諭 岩田 聖美

 

 昔からの夢だった教師になって初めて横須賀に来ました。私は、子どもたちを前にして、楽しい学級をつくるぞ、と意気込んでいました。しかし、いつもから回りしてしまって、授業も学級経営も、何より子どもたちとの関係がうまくいきませんでした。
 子どもたちと休み時間を一緒に過ごしたいと思っていてもできずにいて、悩んでいました。そんな時、指導教官の先生をはじめ、教頭先生や同僚の先生方から、子どもと遊べるのは今、と言われたのをきっかけに、遊ぶようになりました。そうすることで、授業とは違った表情を一人一人がしていることに気づくことができました。
 また、2学期に入っても授業が思い通りにいかない状態が続いていた時に、研究授業をすることになりました。この授業をするにあたって教科の先生にはたくさんの助言をしていただきました。授業では、ワークシートに、子ども自身の読みのめあてや疑問に思ったことを書き込むようにしました。そして、子どもたち一人一人が書き込んだ内容を私が把握した上で、授業を展開していくようにしました。
 すると、他教科とは違うものがいろいろと見えてきて、子どもたちを生かした授業展開ができるようになりました。
 この1年間で多くのことを学び、子どもたちとかかわる中で、子どもたちからも教えてもらったことも多々ありました。
 これからも、子ども一人一人とのかかわりを大切にし、子どもたちをよく理解した上で、授業や学級経営をしていきたいと思います。

 

「学級開きの大切さ」

桜台中学校 教諭 太田 泰義

 

 平成14年4月5日の金曜日、私は始めての学級開きを行いました。その学級開きは、無我夢中で、ただただ周りの先生の真似をして、生徒の反応を予測できない中で、学級をスタートさせました。同じ学年の先生方から、学級開きでは「無駄な時間は作るな」「無駄なことはするな」と言われ、そして最初の1週間で、生徒が出来なかった事、教師が教えなかった事は、1年間通して、生徒は出来るようにはならないと言われました。その時、始めて学級担任を持ち、経験のない私に、その意味を理解することはできませんでした。
 しかし、実際に1年間を終えてみて、最初の1週間で曖昧にしていたことが、3学期になるとうまくいかなくなりました。例えば、話を聞く姿勢、忘れ物などです。話を聞くときの姿勢を良くしなければならない理由や忘れ物をしてはいけない理由を最初の1週間で、きちんと生徒に伝えなかったことが原因でした。そのときに思ったことは、教師の指導の失敗が生徒のだらしなさに表れるということでした。生徒が、きちんとした学校生活を送れないのは、教師の指導不足が理由の一つなのだと気が付きました。
 平成15年4月7日の月曜日。私にとっては二回目の学級開きでした。昨年の中で、学級経営でうまくいかなかった点を考え直し、できる限り生徒にわかってもらうように努力をしました。今年の学級開きの良し悪しが、わかるのは今年の3学期です。何はともあれ、一年一年、新たな経験と知識を積み重ね、生徒が安心して安全な学校生活が送れるような学級を作っていきたいと思います。

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相談セクション


テレビドラマ『迷路の歩き方』より

 

 山田太一作、テレビドラマ『迷路の歩き方』は、新しい家族の問題を扱っているものとして大変興味深い作品です。山田太一は、教育問題を数多く扱ってきていますし、今なぜこの作品なのかという思いで鑑賞しました。ドラマの概要です。
 父、母、兄(ひきこもりのハイティーン)、妹(高校生)の標準的な家族構成です。父は律儀な電車の運転手。息子のひきこもりに日々悩んでいる。母は、夫と息子の間に挟まって苦労をしている。妹は、兄の力になろうとがんばっている。父は、疲労が重なってか、2度も停車のホームをオーバーランしてしまう。息子に悩んでいるようすが象徴的に表現されている。工務店を経営する父の友人に息子の就職を頼む。息子はやっと腰を上げるが、すぐ辞めたいといい出す。引きこもり以来、息子に対して「だらしない」「怠けだ」と言い続けてきた父にとって、いっそうの胆の種である。会社を辞めたい理由は、手抜き工事をしている会社の不正が許せなかったのである。父は、息子の就職を頼んだ手前、しばらくは切り出せない。社長はそれを察し、自ら経済不況の中で生き抜くことの辛さを語る。
 以上、ドラマの前半のあらすじですが、ひきこもりの若者が会社の不正に対して反発の感情をもつということは、若者の純粋さ、正義感の現れであり、「ひきこもり」に、だらしなさ、怠け、弱さのレッテルを貼るのではなく、鋭い感性の持ち主であることを強調したい場面であるのでしょう。しかし、息子がこれから現実社会とつながって生きていくには、不況を生き抜いていかなければならない会社の現実に苦しんでいる社長の立場を理解しようとする柔軟性も持つ必要があるでしょう。一方、不正を許さず、あくまで真実を求めていこうとする純粋で理想的な自己が果たして現実とつながっていけるのか、当面の人生課題を突きつけられながら自分の人生を選び取っていかなければならない「自立」への芽生えを予測させる場面でもあったと思います。

 

 さらに、このドラマの後半に家族が精神的に豊かになっていくための新しい視点が描かれていたのではないかと思います。この家族は、大変誠実で、真摯に生きている家族なのですが、両親も世間が狭く、ゆとりのない家族の雰囲気をもっています。そんな家族が自分に気づき、ライフスタイルを変えていこうと行動に移していくところでこのドラマは終わります。
 母は、専業主婦でひきこもる息子に悩み、家族にかかりっきりで世間の狭い生活になってしまっていたのです。そんな生活に気づいた母は、自分だけの時間をつくり、人とお互いに人生を語り合うなど外部との交流の場をもち、自分の精神生活を豊かにしていこうとする姿が印象的です。また、親友の社長宅と親子共々家族ぐるみで交流を図り、自分を開きながら世間を広げていこうという家族の変容をみることができます。
 この家族が、善良な市民でありながらも、ひきこもる息子を抱えている悲劇の家族像が描かれています。しかし、精神的にひきこもっていたのは父、母であり家族であったのです。息子のひきこもりは、実は家族の雰囲気の象徴だったのです。山田太一は、家族のありようを引きこもる息子を通して見事に描き切っています。
 今、「次世代育成支援対策推進法案」「少子化社会対策基本法案」など子育て支援対策が打ち立てられてきていますが、家族の自立のための支援になることを期待しています。
 社会と上手につながっていく力を培っていくことは、大人も子どもも同じようです。

 

(学校学級経営相談 大橋倫人)

 

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研修セクション


6月の研修案内(研究所担当研修)

<基本研修>

◎初任者研修

 

☆3日(火)13:30~17:00 教育研究所

・講義「小中学校における道徳教育のあり方」について

<小学校> 諏訪小学校教頭  西田 隆信

<中学校> 上の台中学校教諭 佐藤 昌俊

 

☆17日(火)8:30~17:00 養護学校 ろう学校

<養護学校>・養護学校長講話

・授業参観および協議

「本市の障害児教育」学校教育課指導主事

<ろう学校>・ろう学校長講話

・授業参観および協議

「本市の障害児教育」学校教育課指導主事

 

◎6年次研修

 

☆24日(火)15:30~17:00 教育研究所

・講義「情報モラルについて」

横浜国立大学教育人間科学部教授 大島 聡

 

<その他の研修>

 

◎教育課題研修

 

☆13日(金)15:30~17:00 教育研究所

事例研究「総合的な学習の時間」

立教大学教授 奈須 正裕

◎教育相談研修

 

☆6日(金)15:30~17:00 総合福祉会館

「児童虐待の発見と対応」

横須賀児童相談所指導課長 川口 惇夫

◎理科研修講座

 

<小・中学校理科教材研究講座>

☆11日(水)15:30~ 教育研究所

「星や月(小4)」

山崎小学校教諭 大館 哲雪

 

◎情報教育研修講座

 

<実務コース>

 

「表計算ソフト」

☆3日(火)、6日(金)、10日(火)、13日(金)

16:00~ 教育研究所情報教育研究室

 

「プレゼンテーション」

☆17日(火)、20日(金) 

16:00~ 教育研究所情報教育研究室

 

「画像処理」

☆24日(火)、27日(金)

16:00~ 教育研究所情報教育研究室

 

<管理職コース>

 

校長対象:11日(水)、18日(水)

9:30~11:30 教育研究所情報教育研究室

 

 今年度より、希望研修の申し込みは「オンライン(イントラネット上)申し込み」になっています。各学校より「オンライン申し込み」の利用方法に従ってお申し込みください。

 

研修セクション
TEL834-9308
木屋・望月・椿本・北村

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教育情報セクション 


「本を楽しもう展」を開催しました

 

 4月23日の「子ども読書の日」にあわせ、今年は西公民館・北下浦公民館・久里浜行政センターを会場に、「本を楽しもう展」を開催しました。この展示会は、身近な地域の児童・生徒の読書後の感想をもとにした絵を鑑賞することで、ご家庭での話題にしていただき、本に親しむ機会の一つとなることを願ったものです。

 

 

 各会場とも、概ね好評を頂き併設している図書室の利用も多かったという評価をいただきました。学校ではそろそろ夏休みの課題図書を含めた、図書指導が本格化する時期だと考えます。

図書室の一角に、課題図書を展示する他、昨年度の児童・生徒の作品や、全国読書感想画展のカレンダーを展示するなど、本に興味を抱く環境を創られてはいかがでしょうか。

 

「司書」と「英語」

3階図書資料室では、学校図書館と学校図書館司書教諭について、小学校の英語活動についての図書を多めに配架してあります。また、今年度4月から配置された、学校図書館司書教諭の活動を支援するため、新しく「学校図書」(月刊誌)も教育誌のコーナーに配架しはじめましたので、ご利用下さい。

 

Web上でお申し込み

すでにご利用いただいていますが、理科研修・情報教育研修につきましてもイントラネット上の「研修の申し込み」から希望の研修講座を確認していただき、そのまま申し込みが出来るように設定してあります。夏季休業期間中の研修もこちらから申し込みが出来ます。

 

 

平成15年度(2003年度) 横須賀市教育研究所 長期研修講座受講生

鶴久保小学校教諭 遠藤 まゆみ

 

研究テーマ「小学校教育におけるマルチメディアの役割」

~子どもたちの学力向上につながる有効的な活用をめざして~

 

 学力低下論が声高に叫ばれ始めた昨今、ともすれば、知識や技能といった「見える学力」に関心が集中しそうな危惧を覚えます。しかし、学力とは、言うまでもなく「関心・意欲・態度」「ものの見方・考え方」「表現・処理能力」そして「知識・理解」のバランスがとれたものでなくてはなりません。子どもたちが生き生きと目を輝かせ自らすすんで学習にとりくむ姿、そこにこそ真の学ぶ力(学力)があると言えるでしょう。
 さて、学校にコンピュータやデジタルカメラなどのIT機器が入り、それらを使った授業がどこの学校においても行われるようになってきました。まさに情報社会に生きる現代の子どもたちはこれらの機器に対する関心も高く、親しみをもって触れる様子には驚かされます。
 今、まさにIT機器はマルチメディア教材として注目されているわけですが、その活用によって前述したような真の学力を伸ばすことはできないでしょうか。
 子どもたちの意欲を喚起し学習の基盤となる基礎基本を定着させること、また、一人一人の追求心を支援し創造性を育むこと……新しい時代に求められる学習の形がそこには未知の姿として存在しているようにも思われます。ネットワークの活用や個に応じた指導など、可能性は大きく広がります。しかし、その実践は、あくまでも現実的であり、日々の授業において容易に行えるものでなくてはなりません。
 どの学校においても取り組めるマルチメディアの活用法を求めると共に、子どもたちの学力を確かに伸ばす学習方法の構築をめざし、研鑽に努めたいと考えております。

 

教育情報セクション
高木 TEL:837-1338
一栁 TEL:836-2418
坂庭 TEL:836-6104

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こくばん


平成14年度 学校教育賞(2)

 教育賞 

「心豊かな思いやりのあるクラスづくり」

北下浦小学校教諭 松村 伸世

 

<研究の概要>

・学級担任として2年間、音楽を学級づくりの柱として指導し、明るくたくましい児童を育てた。

・校内はもとより学区でも児童の歌声と活発な活動が賞賛を得ている。

・音楽だけにとどまらず、教科全般、児童会活動や行事にもやる気のある児童が育成されている。

 

<研究成果>

(1)仲間や教師との関係等に不満や不安を持っていた子どもたちを、音楽という表現活動を通して立て直していった教育実践(記録)であった。

(2)小学校の高学年の子どもたちは心理的にも難しい時期にさしかかり、ともすれば素直に自己表現をすることに抵抗を示す場合が多いが、教師からの適切な働きかけにより、仲間と共にのびのびと感情を表現できるようになっていった。

(3)教師自身の得意な教科や分野を通して、学級内の人間関係・信頼関係を作り上げ、豊かなかかわりの持てる学級経営につなげた。

 

 努力賞 

「学校生活への適応 自立の道を信じて」

鶴久保小学校教諭 遠藤 まゆみ

 

<研究の概要>

 普通学級における、ある自閉症児の指導記録である。三章で構成されている。

・第3学年の指導(担任として、自立への第一歩、書くことへのアプローチ等)

・第4学年の指導(飛躍の年、飲食と排泄、思いを書くことの指導、言語の表出等)

・まとめ(指導を振り返って、今後の課題)

<研究成果>

(1)実践すべてから感じ取れる熱意はすばらしく子どもの可能性を信じ前向きに取り組む姿勢は高く評価できた。

(2)周囲の児童の変容も含め、子どもの見取りをたいへん丁寧に行った。

(3)児童の成長過程や発達段階をよく考慮した指導を行った。その実践の成果として、児童の成長を促した。

 

 努力賞 

「使ってみようコンピュータ」

大矢部小学校教諭 松本 剛

 

<研究の概要>

・大矢部小学校の校内視聴覚機器整備の具現化

・校内視聴覚機器の環境整備(視聴覚機器に触り、慣れ、親しむ)

・ニューメディア、ミックスメディアによる授業の展開

・情報教育機器の学習での活用、管理

・コンピュータ活用のための快適環境の構築

・個人末端、職員室LANの設定、活用

・資料他

 

<研究成果>

(1) 教職員が情報機器について理解し、広く教育活動の場において機器を使いこなせるようサポートした実践であった。

(2)情報機器が整備され、今後、効果的な活用が望まれる中、児童にパソコン、インターネットを使う上での情報モラルを計画的に指導した。

(3)校内の情報機器の整備に努めたことはもちろん、市内各校の情報教育の推進、普及に努めた。

 

 学校教育賞は、本市の学校教育の発展振興をはかるため昭和24年から実施されています。14年度は教育賞1点と努力賞5点という結果でした。どの研究・実践(記録)も応募者の熱意と努力の伝わってくる優れたものでした。15年度もより多くの応募のあることを願っています。

(所長 五ノ井)

 

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更新日:2023年10月31日 23:54:33